どうしてこの本が売れているのか?
お客さまは、いまどんな読み物を求めているのか? など、
『ほぼ最新のランキングから』は、奥渋谷の本屋「SPBS本店」の先月のベストセラーランキングを肴にして、粕川店長にあれやこれやと振り返ってもらう企画です。 さあ、今回もいってみましょー!
文・写真=SPBS編集部
1位:『SPECTATOR VOL.41”つげ義春”』(エディトリアル・デパートメント)/2位:『STUDIO VOICE vol.412』(INFASパブリケーションズ)
──粕川店長、今月もよろしくお願いします!
粕川:お願いします! 今回は、これまでのSPBSランキング記事で、まだ取り上げたことのないものを中心に見ていきたいと思います。1位は、雑誌『SPECTATOR VOL.41”つげ義春”』でした。
最後の最後に掲載されている、つげさんご本人の談話は、ファンのみならず必見です!(粕川)
──漫画家・つげ義春さんの特集ですね。根強いファンが多そうなイメージがあります。
粕川:はい、この『SPECTATOR』という雑誌自体も根強いファンが多いんです。今号の注目は、何と言ってもつげ義春さんご本人が登場されているところ! 近況写真まで載っていて、出版業界がすごくざわついています(笑)。
──すごいですね。
粕川:うちのスタッフも、今回の『SPECTATOR』を読んでつげ義春さんの漫画を改めて読みたくなったと言っていました。試しに作品をいくつか店頭に並べてみたんですが、これらもよく売れています。
──『SPECTATOR』は、「カレー・カルチャー」や「赤塚不二夫 創作の秘密」など、魅力的な特集企画を組むことが多いですね。
粕川:はい。サブカルチャー好きにとっては、当たり前のように人気の雑誌です。毎回よく売れているんですが、今号は、より反響が大きいです。
──2位の『STUDIO VOICE vol.412』もサブカルチャー系の雑誌ですね。
実は最初にこの特集を知った時は「売れるのかな?」と思ってしまったのですが…(粕川)
粕川:はい、『STUDIO VOICE』は前号からリニューアルして、企画内容や雰囲気がガラリと変わりました。今号のテーマは「Documentary / Non-Fiction」。
雑誌というと私は、「流行りのモノを追う」イメージがあったので、最初、なぜ今この特集なのだろう?と思ったのですが、少し読んでみたら……自分の知らない、情報というか世界が広がっていて驚きました。映画監督、写真家、インタビュアー、作家、ミュージシャンなど様々な方たちが登場して、その方たちなりのドキュメンタリーやノンフィクションへの関わり方が語られるので、興味もそそられます。こういったジャンルの本はSPBS本店では比較的売れにくかったのですが、お客様は雑誌を通して、新しい世界へのきっかけが欲しいのだなと気づきました。売れる理由が分かった気がします。
──1位・2位と続けて雑誌ですね。
粕川:そうですね。ファッション系より、カルチャー系の雑誌が根強く動いていますね。「雑誌は売れなくなった」と言われますが、カテゴリー毎に見ると全然そんなことないなという印象です。
3位:『Tokyo Eatrip』(講談社)
奥渋谷にある、あのお店も載っています!(粕川)
──3位は『Tokyo Eatrip』でした。こちらはどんな本でしょう?
粕川:人気フードディレクターの野村友里さんが書かれた本で、その名の通り、東京のおいしいお店を紹介している1冊です。ただ紹介だけでなく、食のコラムなども載っているので、読み物としても楽しめます。しかも全ページ英訳がついているので、外国の方にもよく売れています。
──タイトルも海外の方に伝わりやすいネーミングですよね。
粕川:はい。3,000円ほどする高価格帯の本なのですが、3月だけで23冊売れました。発売日が3月9日だったので、1日1冊は売れている計算です。野村さんのファンもたくさんいらっしゃるということもあるけど、それでもこの価格帯の本としては、すごい売れ行きだと思います。
──海外の方向けに、ここまで詳しく、かつ英語で分かりやすく東京のお店を紹介している本は意外に少ないのかもしれないですね。
粕川:そうですね。友だち同士で来て、みんなそれぞれ1冊ずつ買って行かれる海外のお客様もいました。「東京で、このお店に行ってきたよ」という土産話にも使えそうですし、お土産として買われる方も多いのかもしれません。
──写真がたくさん載っていて、必要な情報も綺麗に収まっていて見やすいですね。
粕川:はい、見ているだけで楽しい本です。
番外編:『もしもし、運命の人ですか。』(角川文庫)/『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』(集英社文庫)/『女と仕事』(タバブックス)
恋、仕事、女…… ついつい考えたくなるテーマです。(粕川)
粕川:今回は番外編として、エッセイ本を3冊取り上げてみました。まず『もしもし、運命の人ですか。』『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』は、それぞれ穂村弘さん、みうらじゅんさん・宮藤官九郎さんの恋愛エッセイ集です。文庫本のコーナーに恋愛モノを何冊か置いてみたいとスタッフから提案があって、並べてみたところ反響が大きかった2冊です。どちらも、少しクスッと笑える楽しい恋愛エッセイ本です。
──春は出会いと別れの季節ですし、恋愛モノはこの時期に読みたくなるジャンルのひとつですね。
粕川:そうですね。文庫なのでサラッと読みやすいです。補充が追いつかないくらいよく売れています。
──『女と仕事』は、どういう本なんですか?
粕川:タバブックスさんという小さな出版社が出している、文字通り「女と仕事」にまつわるエッセイ集です。寄稿されている方も全員女性、そして買われていく方も女性ばかりです。
──まさに、女性の・女性による・女性のための本、という感じでしょうか。
粕川:そうですね(笑)。SPBSにいらっしゃる女性のお客さまは、仕事をがんばっている方が多い印象があるので、そういった人たちに響いているのかもしれません。「みんな、がんばれ〜! 私もがんばる~!」と、レジ越しから応援したくなります。
──今回もありがとうございました。ところで、すっかり桜は散ってしまいましたが、粕川店長はお花見はされましたか?
粕川:しました! 比較的人が少ない多摩川でのんびりと。シューマイ弁当が好きなので、ビールを飲みながらシューマイをつまみつつ桜を眺めるのが私流の最高の花見です。
──良いですね! 粕川店長流「Tokyo Eatrip」ですね(笑)。
花見のお供は、著者・森下さんの「シウマイ弁当の食べる順番」が載っている本、『いとしいたべもの』。
私も、書いてある順番通りに食べました。(粕川)
【3月 SPBS ベストセラーRANKING】
1位:『SPECTATOR VOL.41”つげ義春”』(エディトリアル・デパートメント)1,080円(税込)
2位:『STUDIO VOICE vol.412』(INFASパブリケーションズ)580円(税込)
3位:『Tokyo Eatrip』野村友里(講談社)3,186円(税込)
<番外編>
①:『もしもし、運命の人ですか。』穂村弘(角川文庫)605円(税込)
②:『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』みうらじゅん、宮藤官九郎(集英社文庫)648円(税込)
③:『女と仕事 「仕事文脈」セレクション』仕事文脈編集部(タバブックス)1,512円(税込)