10年前の2008年、わたしたち「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(以下SPBS)」は、『ROCKS(ロックス)』という雑誌を発行していました。時代に流されずに自らの信念を貫く、気骨のある“ロックな”方々に、誌面を使って“いまの気分”や“いま興味のあること”などを自由に表現いただくという一風変わった雑誌でした。
あれから10年が経ち、改めて「ロックであること」について考えてみたい! そう思ったSPBSスタッフは、この10年間ずっと自分のスタイルを貫いているスタイリスト、伊賀大介さんに「心震えるロックな本」を選んでいただき、お話を伺うことにしました。活字中毒だという伊賀さんの、脱線だらけのブックレビュー!? です。
文・写真 = SPBS編集部
本は何十冊も買って配る!
──“心震えるロックな本”というテーマで選書をお願いしたのですが、魅力的なタイトル数が揃いました。
伊賀:盛り込んじゃいました。僕がロックンロールを感じる本のベストオブベストだと思うのは、大竹伸朗さんや岡本太郎さんの本なんですけど、20歳代の頃からずっと推しすぎてきたので今回はあえて外してみようかなと思いまして。岡本太郎の『今日の芸術』なんて、好きすぎて、会う人会う人に配ってるんですけどね。たぶん100冊以上買っていると思う。
──100冊!(笑)。
伊賀:「アツイ感じのベスト本」になっちゃうと20歳代の頃のセレクトとあまり変わらなくなってしまうかなと思ったので、今回は全体的に音楽の臭いがする本を選んでみました。
伊賀大介さん手書きのブックリスト
まず紹介したいのは、サニーデイ・サービスの曽我部恵一さんの『昨日・今日・明日』(*1)。もう何回も読んでいます。最初に角川書店から出版された単行本バージョンの装丁がものすごく良くて。晶文社の “植草甚一スクラップ・ブック”みたいなビニールカバーが付いていて、70年代の本みたいな感じなんですよ。本屋で見つけるたびに同じ本を何度も買っていたんですけど、次第に見つからなくなってきて……。古本市場での価格が高くなってきたときに、ちくま文庫から再版されました。そのときは一気に30冊くらい買いましたね。
──さっきから買う量が桁違いですね!
伊賀:本テロと呼ばれてますが。たくさん買って、「面白いから読んで!」って言って配るんです。それから、映画評論家の町山智浩さんの『本当はこんな歌』(*2)もおすすめ。町山さんの本はいっぱいあるけど映画以外の本もどれも面白くて。これは「週刊アスキー」の連載をまとめたものなんですけど、洋楽の歌詞の意味やその背景を町山さんの様々なジャンルに渡る解説で、マリリン・マンソンの「ビューティフル・ピープル」は何について歌っているのか!?とか、レディオヘッドの「クリープ」とか。目からウロコです。
──面白そうです。音楽的なセレクションの中にいきなり村上龍が入っているのも面白いですね。
伊賀:村上龍でロック感というと「69」とかになると思うんですが、『走れ!タカハシ』(*3)も音楽的なグルーヴ感がある本なんですよ。この間も、40歳代の男たち3人ぐらいで集まって、「この時代の村上龍はコラムも含めて、全部最高!!だな!」って話をしていたんです。「いつか世間は村上龍の再評価をしなければならない」って酒飲んで好き勝手言ってるだけなんですが。みんなで、この頃の彼の作品を「左手で書いた村上龍」って表現してるんですけど、良い意味で気楽に書いたように読める村上龍作品の面白さを若い人にも読んで欲しくて。
〈幻冬舎アウトロー文庫〉で読んだ、破天荒な男たちの生き様
──この本の表紙もインパクトがありますね。
店頭だと目立つ……というか、ちょっと浮いてる!?
伊賀:『破滅:梅川昭美の三十年』(*4)はスゴイですよ。約40年前に大阪市住吉区で起きた銀行強盗事件の犯人のことを描いたノンフィクションです。犯人の梅川昭美は「30歳までにデカい事成し遂げたい」って言って、三菱銀行北畠支店に猟銃を持って押し入り、客と行員30名以上を人質にし、立てこもったんですよ。立てこもっている間、女子行員を全裸にして自分を守るための人間の盾として並列させたり、人質の耳を削いだり、最終的に4人の方が犠牲になったんですが、リアル「ソドムの市」というか、最悪の事件なんです。この本が出たあと、高橋伴明監督、宇崎竜童主演で、『TATTOO<刺青>あり』っていう映画にもなりました。さすがに事件自体を映像では描けないので、映画は事件を起こす銀行に向かう所で終わるんですけど、本当にとんでもない男なんですよ。でも、その狂気の出自や、コンプレックスの社会背景など、目を逃せないんです。
──この本は書店で出会ったんですか?
伊賀:はい。創刊した頃の〈幻冬舎アウトロー文庫〉はほとんど読んでいるんです。官能小説の大家として知られる団鬼六さんの本も結構アウトロー文庫から出ていたんですけど、『牡丹』(*5)っていうエッセイや『真剣師小池重明』(*6)のような、SMじゃない“人間鬼六!”という感じの作品にグッときました。
アウトロー文庫、最初の頃のラインナップは本当に素晴らしかったんですよ。幻冬舎関係の人に会うたびに「絶対に創刊の頃のアウトロー文庫復刊してほしい!!」って言ってるんです。一向に復刊されないけど。
伊賀:時代劇研究家の春日太一さんの『天才 勝新太郎』(*7)も最高です。これは、一般的には豪放磊落なイメージの勝新の、創作者としての素顔に迫った一冊で。映像を撮る事に取り憑かれて一匹の鬼と化した役者の姿が克明に記されています。文章にスピード感があるから、一気に読めちゃう。以前、女優の原田美枝子さんのインタビュー記事を読んだんですが、その中に勝新との思い出エピソードが出てくるんです。目が見えない人と聾唖の会話シーンを収録しに行くときの話。寒い冬にロケで海に行くことになって、普通ロケバスでいくところを、緑色のジャガーで勝新がやってきて、「俺が運転するから美枝子横乗れよ」って言ったらしくて。車内では70’スティービー・ワンダーの音楽がブリブリに流れていて。 勝新ってすごいおしゃれだったんだなーと思って、いい話だなと。
40歳を迎えて気づいた広義の「ロック」
──勝新太郎さんや団鬼六さんなど、みな、生き方の中にロックを感じられる方々ですよね。ちなみに今回「ロック」という選書のお題を聞いて、どんなイメージを思い浮かべましたか?
服装からも口調からもスタイルを感じる伊賀大介さん
伊賀: 40歳になって、色々思うことがあります。若くて衝動的なものとか“激しさ”じゃない……広義な意味での「ロック」が分かるようになってきたというか。10代〜20代は勢いがあって、派手で、早熟で、夭折してしまうようなものがロックだと思っていたんですけれども、年月を経る事や、全く商業としてやってない表現としての“ロック”もあるじゃないですか。フォークシンガーの三上寛さんとか、エンケンさんとか、ムーンライダーズとか。自分の中にあるロックの定義が20代前半の頃から比べるとだいぶ変わりました。10歳代後半のころは、30歳代以上の先輩達の姿を見て、「ひ弱になったなあ~オッサンだ~!」とか、「もう終わってんな~」なんて思っていたけれど、実際に自分が30歳代になってみると逆に「TRUST OVER THIRTY」と思いますし、40歳代になっても不惑には遠い、みたいなことあるじゃないですか。まだまだモラトリアムです! という感じで。歳を重ねることで表面的な激しさはなくなっても、ロックだなあと思う人はいますよね。
(後半はこちら>>)
[インタビューに登場した本のご紹介]
『昨日・今日・明日』(*1)(曽我部 恵一 著/角川書店/1999)
シンガーソングライター、曽我部恵一の約5年間で書かれた原稿をまとめたエッセイ集。
『本当はこんな歌』(*2) (町山 智浩/アスキー・メディアワークス/2013)
グリーン・デイ、エミネムなど、「聞いたことあるけれど歌詞の意味を知らない」洋楽40曲を映画評論家の〈町山智浩〉が大解説。
『走れ!タカハシ』(*3) (村上龍/講談社 /1989)
1970年代後半から1980年代の広島東洋カープ黄金時代に盗塁王として活躍した遊撃手、〈高橋慶彦〉を軸に、その周辺にある人間ドラマを描いた短編小説集。
『破滅:梅川昭美の三十年』(*4) (毎日新聞社会部/幻冬舎/1997)
1979年に起きた「三菱銀行人質事件」の犯人、梅川昭美の幼少期からその死に至るまでを徹底取材したノンフィクション。
『牡丹』(*5) (団 鬼六/幻冬舎/1997)
博奕打ち、相撲取り、くず屋、ヤクザ、といった人々との交流を描いた団鬼六のエッセイ。
『真剣師小池重明』(*6) (団 鬼六/幻冬舎/1997)
“新宿の殺し屋”と呼ばれた、アマチュアの将棋ギャンブラー小池重明の生き様を描いたノンフィクション。
『天才 勝新太郎』(*7) (春日 太一/文藝春秋/2010)
日本が誇る名俳優であり、映画監督の〈勝新太郎〉を題材にしたノンフィクション。日本の映画史・時代劇研究家である〈春日太一〉が当時のスタッフらに徹底取材し、日本一豪快で破天荒な映画人・勝の実像を浮き彫りにする。
〈プロフィール〉
〈INFORMATION〉
ブックフェア〈伊賀大介が選ぶ「心震えるロックな本」〉開催中! 会期は4月30日まで。
トークイベント4/26(木)開催〈五木田智央さん×伊賀大介さん×井上崇宏さんの男3人プロレス夜話 アート×ファッション×編集 ~すべての道はプロレスに通ずる~〉*満席となりました。
伊賀 大介(いが だいすけ)さん / スタイリスト
1977年 、西新宿生まれ。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22才でスタイリストとしての活動開始。雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、その他幅広いフィールドで活躍中。