日々、さまざまなお客さまで賑わうSPBSの売筋やおすすめのフェアを紹介する当企画。「何か面白いものないかな」と探しているそんなあなたに、マネージャー・鈴木と店長・粕川がSPBS的イチオシをご紹介します。
今回は、大人も楽しめるとっておきの絵本から、仕事の悩みに寄り添う雑誌まで、きっと思わず手に取ってしまう運命の一冊に巡り会えるはずです。
絵本は大人でも楽しめます!〜『わたしのゴールデンベル』(2018、若芽舎)
──SPBSでは絵本のコーナーも充実していますが、やっぱり人気なんですか?
鈴木:人気ですね。お子さま連れのお客さまが増えた時期があって、子ども向けに絵本の取り扱いをはじめたのですが、意外と大人でも楽しめるものが多いんですよ。仕入れをしていて自分たちも楽しくなってきている状況です。
──絵本って大人でも楽しめるんですかね……?
鈴木:楽しめますよ! たとえば、子どもの頃に読んだものを大人になってから読むと、本当に気づくことが多いです。長い文章で伝えるよりも短い文章の方が直球で刺さりますし。
──なるほど! 確かに。そういえば、先日「スナックSPBS」で開催されていた若木信吾さん作『わたしのゴールデンベル』という絵本のイベントにお邪魔しましたが、お客さまがみんな絵本を開いて、楽しげに朗読していたのが印象的でした。
鈴木:『わたしのゴールデンベル』は、読んでいると五感が刺激される感じがありますね。思わず読み聞かせしたくなっちゃうんです。擬音語が多く、子供と一緒に楽しめるという感じ。
若木さんは写真家ですが、もともと「ヤングトゥリー・プレス」という出版活動もされていました。お子さんが生まれて、もっと、自分が「読ませたい」と思う絵本をつくりたいと、仲間たちと始めたのがこの「若芽舎」というレーベルなんです。 9月から1冊ずつ出ていて、今回刊行された『わたしのゴールデンベル』は第3弾。立ち上げ当初の、若木さんの思いからぶれていないですね。シュールな世界観も可愛らしい。
今人気のイラストレーターさんたちを起用してつくっているのも特徴ですね。今回は、佐伯ゆう子さんが手がけられました。
──粕川さんの絵本のイチオシはどれですか?
粕川:『やましたくんはしゃべらない』です! 最近出版されました。かつては京都の「ガケ書房」、今は「ホホホ座」という本屋で店主をされている山下賢二さんが書いた絵本です。中田いくみさんが絵をつけられています。中田さんの絵が本当によくて……。
──かわいいですね!
粕川 : 中田さんは漫画も描かれていて、WEBで『つくも神ポンポン』というお話を連載中です。
この『やましたくんはしゃべらない』は、学校でかたくなに一言も喋らない、一風変わった男の子、「やましたくん」を描いています。名前の通り、山下賢二さんの子どもの頃の実話がもとになっているんです。最近、日本でも多様性に配慮されるようになってきていますが、そういう点で考えさせられる本だな、と感じました。「いじめ」という主題にもつながっていく気がしたんです。「違うことは『マイナス』ではない」「いじめていい理由はない」という。考え過ぎかもしれませんが……。
──なるほど。そういう主題は、大人が読んでも考えさせられますよね。
粕川 : あと、『ペロのおしごと』もおすすめですよ。これは犬が主人公で、普段は四つん這いになっているんですけど、赤いベルトを腰につけると「シャキーン!」と立ち上がって、お手伝いをするっていうやばい話なんです(笑)。
鈴木 : そう、普通に考えたら「おかしくない!?」っていうシュールな話を、つっこみながら読んでいくのもすごく楽しいんですよ(笑)。
──それは大人にしかできない楽しみ方ですね!
おばあちゃんと女子高生がまさかの「BL仲間」に!?〜『メタモルフォーゼの縁側』(2018、角川書店)
──入って一番すぐの棚には、最新の本たちが並んでいますね。これは、漫画ですか?
粕川 : はい、『メタモルフォーゼの縁側』です。待望の2巻が出たので、これもぜひ紹介したいです。
──以前、うちで原画展も開催していましたよね。
粕川 : はい、私がどうしてもやりたくて……。年の差58歳のおばあちゃんと、書店でアルバイトをしている女子高生が「BL友達」として友情を育んでいくというお話。おばあちゃんが、「表紙が綺麗」と手に取った漫画がたまたまBLだったんですけど、それを女の子が「あのおばあちゃんBL買ってる! しかも私の好きなやつ!」とびっくりして、ふとしたきっかけで店先で声をかけてみたら話が弾んで、「お茶を飲みにいかない?」と。
2巻では、2人でついにコミケに行くんですよ。お互いに初めてだから、オロオロしながらもがんばって好きな作家さんに会いに行くという。
──なんて微笑ましい。
粕川 : そう、微笑ましいんです。おばあちゃんは、夫に先立たれていて、誰とも会話をしなくても生きていけるようになっていた。女の子も、BLを好きだというのを人に言ってこなかった。お互いの好きなものを分かち合う喜び、楽しさを見出して行く2人の姿を見ていると、なんとも胸があたたかくなるんです。
今、WEBで連載をしているので、ぜひ試し読みしていただきたいです。
鈴木 : 鶴谷香央理さんは、『don’t like this』という作品もリイド社さんから出ていますが、『メタモルフォーゼの縁側』と同じ日に出版されたんです。違う出版社さんが同じ作家さんをお互いに盛り上げているんですよね。
──珍しいですね。なんだかいい話です。
働く私たちに寄り添うタバブックス〜『仕事文脈 vol.13』(2018、タバブックス)
鈴木 : あと、粕川さんが今朝「すごくいい」って言っていたこちらも、ご紹介したいです。タバブックスさんから出版されている雑誌の「仕事文脈」。
粕川 : 「仕事」というテーマがまず軸にあって、その周辺のあれやこれやについて書かれた文章を取り上げて編集されています。2012年の創刊から、ずーっとコンセプトがぶれてません。これが11月27日に出版された最新号「vol.13」ですね。
──「特集『悩み、うざい』」(笑)。
鈴木:タイトル強烈ですよね(笑)。これ以上ないほどストレートで強いコピー。
──(中身をめくりながら)えーっ、上馬キリスト教会さんが掲載されている! 最近、Twitterのトレンドで何回も出てくるんですよ。キリスト教関連のニュースをゆるーく呟いてるんです。
鈴木 : そうなんですか、初めて知りました。目の付け所がやっぱりすごいですね。タバブックスさんて、仕事関連の本はやっぱり強いですよね。
粕川 : 強いですね。過去の掲載をまとめた『女と仕事 「仕事文脈」セレクション』も根強く売れ続けています。タバブックスさんは、代表が女性なんです。だから、このテーマについてはすごく真剣に取り組んでらっしゃるというのがわかります。
鈴木 : 伝えたいことがしっかり見えてくる出版社さんは少ないですけれど、タバブックスさんは、ラインナップを見ているとカラーを感じます。
──メッセージを強く発信し続けているんですね。そうやって真摯につくられたものは、やはり読者の共感を呼びますよね。ぜひ読んでみたいです。
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いよいよ気忙しくなってくる年末に向けて、ホッと一息つけるとっておきの一冊を見つけにいらっしゃいませんか。