〈Afterhours〉店主の横田愛さん
代々木公園駅から歩いてすぐの、裏道を入ったところに店を構えるケーキ・焼き菓子店〈Afterhours〉。2014年からイートインを併設した現在の店舗になり、インスタグラムはなんとフォロワー数4万人超え。シンプルながらこだわりの詰まったケーキや焼き菓子は、訪れる人の楽しい時間にそっと寄り添ってくれます。お店づくりやお仕事へのこだわり、そして〈Afterhours〉の店名に込められた素敵な思いを、ショーケースの前で店主の横田愛さんに伺いました。
取材・文=佐藤南(SPBS)
「かわいらしくならない」お店づくり
──今回の企画が、奥渋谷界隈のお店をご近所目線でご紹介する、という趣旨なんですけど、代々木公園の近くにお店を持とうと思った理由はありますか?
横田:〈Afterhours〉で買ったケーキや焼き菓子を代々木公園での楽しい時間に加えて欲しいなという思いもあり、この場所に決めました。2007年に通販店のみでスタートして、2010年にテイクアウトできるように改装して、2014年にイートインができるように再度改装をして現在にいたります。
──表通りから細い路地に入って、さらに曲がったところに入り口があって、隠れ家的な、「知る人ぞ知る」お店を目指してつくられたのかと思ったのですが……?
渋谷に近いとは思えない、この路地からのアプローチ!
横田:この物件の入り口が通りに面していなかっただけで、隠れ家を狙ったわけではありません。最初は通販だけでしたので、路地裏でもいいかなと思いました。今となっては「知る人ぞ知る」みたいに思ってくださる方もいますが、「見つけにくい」とい言われることも少なくありません。
──こういうお店のデザイン、コンセプトはご自身で考えられたんですか?
横田:建築家の方に要望を伝えてデザインしていただきました。
──その要望はどんな感じだったんですか?
横田:ショーケースにケーキが入ると、かわいらしい空間になってしまい、お店の雰囲気が緩んでしまうので、内装をかわいらしくしたくないということがメインでした。そのためにカウンターやテーブルも直線や鋭角的な感じにしています。ケーキがないときは少し空間が冷たすぎるんじゃないかと心配される位に要素を減らしてもらいました。
──入り口へのアプローチも、建築家さんのデザインですか?
横田:そうです。構造的な問題で思い通りにはいかない部分もありましたが、うまくつくってくださいました。
撮影のため、開店前に陳列していただいた。この日のショートケーキはぶどう
インスタはシンプルに
──インスタグラム(@afterhourscake)のフォロワー数が4万人を超えてらっしゃってますよね。2014年から現在のイートインを併設した店舗になられたとのことですが、「インスタ映え」が流行った影響は感じられましたか。
横田:インスタで〈Afterhours〉を知って来てくださる方はとても多いです。
──私もインスタで知りました。
横田:ツイッターやフェイスブックも以前からあるんですが、実際に来てくださる方はインスタを見ていらっしゃる方が多いなという印象です。
〈Afterhours〉さんのインスタグラムは、フォロワー4万3千を超えている
──どなたが撮影してるんですか?
横田:「時間がない!」と言いながら私が撮影しています。
──開店前に?
横田:そうです。忙しいと更新できません。
──そうなんですね。でもなんかわかる気がするというか、建築家さんに「シンプルに、カウンターの角は残して欲しい」っていうリクエストをする方がつくるインスタっていう感じがすごいしますね。
横田:スタッフが全員女性ですので「ほんわか」した雰囲気にならないようには気をつけています。
──お店にいらっしゃるお客さまも女性の方が多いですか?
横田:どちらかというと女性が多いのですが、最近では若い男性1人でケーキを2、3個買われる方やイートインで3個も召し上がる方もいらっしゃいます。
今秋新登場した「かおクッキー」。愛想のない表情がなんとも言えない味わい。味はピーナッツ、あずき、チャイの3種類(写真:〈Afterhours〉ウェブサイトより)
「自分の好きな」ケーキ──発想と原点
──ケーキや焼き菓子の新メニューの開発は、どこでインスピレーションを受けたり、どうやってデザインを考えたりされていますか?
横田:ケーキは私が好きなものだけをつくっています。いろんなお店に行って美味しいものを食べるとインスピレーションが湧いてくることがあります。同じものを再現したいわけじゃなく、美味しいものをつくりたいという感覚です。
──食べるものは、ケーキとも限らず?
横田:限りません。ケーキでも料理でも、美味しいものに刺激を受けます。スタッフと一緒にご飯を食べに行っても、「つくりたくなったね」と言ったりします。
──でも、ケーキって味だけじゃなくて、デザインとかも重要じゃないですか。
横田:以前働いていたケーキ店や昔ながらのケーキ屋さんで、ツヤツヤしたデコレーションケーキとか、チョコレートで飾りをつくって付けたりとか、お酒をすごく生地に使ったりとかしてたんですが、私はもっとシンプルなケーキをつくりたいと思っていました。
──「昔ながらのケーキ屋さん」の反動でできた。
横田:〈Afterhours〉ではリキュールは使わないですし、食べられないカード類や葉っぱなどはできるだけケーキの上に載せないようにしています。お客さまから「あれはないの?」「これやれば良いのに」と言っていただくこともありますが、私が好きだなと思うケーキをつくっています。
シンプルなデザインの四角いクッキー缶は、開けるとびっしりクッキーが詰められている。古典的な焼き菓子は手土産にも間違いなし
季節の素材を取り入れたケーキは、インスタグラムでチェック!(写真:〈Afterhours〉インスタグラムより)
お客さまの〈Afterhours〉に寄り添う
──改めて、〈Afterhours〉という店名に込められた思いをお聞かせください。
横田:以前、夫婦でそれぞれ会社員だった頃に「いつか自分たちでお店をやりたいな」という思いから、仕事以外の時間をたくさんのお店を食べ歩くことに使いました。その後、夫はコーヒーの焙煎の勉強をするようになり、私は会社員を続けながら、製菓の学校に通ってから、会社を辞めて自分が好きだったケーキ店にお願いして入れてもらいました。
〈Afterhours〉っていう言葉は「after hours=営業時間外」という意味なのですが、仕事の後の時間を自分の好きなことに使うことが、未来に繋がるという意味を込めてお店の名前にしています。お客さまの〈Afterhours〉にケーキやお菓子で寄り添えられたらという気持ちを込めました。
──今はどんな未来を想像されていますか?
横田:規模を大きくしてスタッフも増やしてというよりは、自分が好きなケーキや焼き菓子をつくり続けたいという気持ちが強いです。
──自分の好きなお店で、好きなケーキをつくるために。
横田:経営者になりたいのではなく、ケーキ屋さんをやりたいので、もっと美味しいケーキがつくれるようになりたいですね。
訪れる人の「未来をつくる時間」に、ほっと落ち着くひとときを添えてくれる〈Afterhours〉のケーキや焼き菓子。店主の「好き」が丁寧に、そして細部まで表現された、お店の空間づくりやケーキづくりへのこだわりに、「本」づくりに携わる私たちも背筋が伸びる気持ちになりました。しかしひとくちケーキを頬張ると、どこか懐かしくあたたかい気持ちになれるのは、店主のしなやかなスタンスと、工房の和やかな空気の絶妙なバランスがなせる技なのだと、納得させられました。
かぼちゃや栗のタルトなど、秋のシーズンメニューはハロウィンまで。11月からはりんごやいちごのケーキが店頭に並ぶそう。次のシーズンメニューも楽しみです!
横田愛(よこた・あい)さん
会社に通いながら、週末は専門学校で製菓を学ぶ。退職後、好きだった都内のケーキ店の製菓部門担当を経て独立。2007年から通販サイト〈Afterhours〉をオープン。2010年から現在の店舗でテイクアウトを始め、季節のフルーツや素材を活かしたシンプルなケーキ、クラシックな焼き菓子を揃える。休日は家族と過ごす時間を大切にしている。
Afterhours
東京都渋谷区富ヶ谷1-7-9(12:00〜17:00 日・月曜日定休、イートインは金・土曜日のみ)