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日本で活躍する英国出身のコメディアン・BJ Foxさんが語るカルチャーと笑いの深い関係

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日本で活躍する英国出身のコメディアン・BJ Foxさんが語るカルチャーと笑いの深い関係

ミレニアル世代のSPBS編集部員 西村が、日常の中で疑問に感じることを、その道の専門家に問いかける企画、「@spbs_chatroom」。ミレニアル世代の武器である“チャット”を使用した取材で、考えを掘り下げていきます!
今回のテーマは、「多様化する社会における“お笑い”の役割」。東京で日本語スタンドアップコメディライブ〈おコメディ焼き〉を主催する、イギリス出身のコメディアンBJ Foxさんに取材を依頼しました。グローバル化が進む東京にはさまざまな人種やセクシュアリティの人が集まり、ライフスタイルや価値観も一人ひとり異なります。そのような中で政治や文化にまつわるテーマを扱い、ブラックユーモアを交えながら笑いに昇華させているBJ Foxさんの“お笑い観”について聞きました。

 

BJ Fox(びーじぇい ふぉっくす)さん

イギリス出身のバイリンガルタレント・コメディアン。欧米で人気のあるスタンドアップコメディを日本語で行う、『おコメディ焼き!LIVE』が人気を呼んでいる。イギリスおよびシンガポールなど東南アジア諸国で英語のコメディアンとしての経験を身につけ、ブラックユーモア満載のブリティッシュスタイルを貫く。コメディの他に、MC、俳優そして映像ディレクター業で活躍。NHK World初のオリジナルドラマ「Home Sweet Tokyo」の脚本家・主役としても知られる。
●公式ウェブサイト

 

取材・文・イラスト=西村華子(SPBS)

友人のライブを観て、お笑いの世界へ


kaco
BJ Foxさんがスタンドアップコメディを始めたきっかけはなんですか?


BJ FOX
実は、コメディアンになろうと考えたことはありませんでした。


BJ FOX
たまたまシンガポールに赴任していた時、知り合ったシンガポール人がスタンドアップコメディをやっていて、ライブを観に行ったら自分もトライしたくなったことが始まりです。
もしかしたら、ずっとコメディにチャレンジしたかったのかもしれませんね。


kaco
そうなのですね! 


kaco
それではコメディアンになる前は何をされていたのですか?


BJ FOX
会社員です。 以前はどうやってコメディを始めたらいいかわからなかったけれど、友人がいたのでお笑いのやり方が見えてきたのかもしれません。


kaco
シンガポールではスタンドアップコメディの反響はどうでしたか?


BJ FOX
イギリスの植民地であったシンガポールとの間には複雑な関係がありました。


BJ FOX
それに、最近までは公共の場でマイクを使用すること自体、政治的な規制があり、僕がいた2013年ごろのシンガポールではスタンドアップコメディは成長途中にありました。

 

 

 

*1『シンガポールのコメディの原点』

日本のお笑いに感じる“違和感”とは?


kaco
日本にいらっしゃったきっかけはなんですか?


kaco
また、日本でコメディを続けようと思ったのはなぜですか?


BJ FOX
2015年、転勤で日本にやってきました。シンガポールにいた時、コメディをやっていて楽しかったので、日本でも続けようと思いました。初めは月に1、2回程度ライブを行っていましたね。


kaco
日本には、綾小路きみまろさんやビートたけしさんがやっている漫談というお笑いがありますが、スタンドアップコメディと類似していますよね。


BJ FOX
はい、似ていると思います。
スタンドアップコメディーには決まった“カタチ”がないので。


BJ FOX
だけど、たまに思うのは、お笑いを見る“環境”が大きく違うというところ。


kaco
たとえば、どのような“環境”ですか。


BJ FOX
日本にはお笑いの劇場があって、昼間や夕方にライブが開催されます。
お客さんはペットボトルの緑茶を飲んでいるイメージ。


BJ FOX
対してスタンドアップコメディーは、基本的にパブやクラブで夜に開催されます。
そして、お客さんはお酒を飲みながらコメディを見る。


BJ FOX
私が企画しているライブでは、欧州スタイルのパフォーマンスだけじゃなくて、スタンドアップコメディ独自の雰囲気も紹介していきたいと考えていますね。


kaco
日本のお笑いに違和感を感じたことはありますか。


BJ FOX
変な小道具やコスチュームを利用する芸人の多さとか。


BJ FOX
それから、女性芸人が「デブ」や「ブス」のような自虐をベースにしたネタをやっていることに驚きます。


kaco
確かに、完全にステレオタイプですが……。


kaco
特にバラエティ番組で「ブス」「デブ」という言葉を異性から聞くと正直、面白いというよりも気の毒に感じることがあります。男性芸人だと体を張った芸や、過剰ないじりも同じように感じます。



BJ FOX
美人芸人とか、自信を持っていて強いイメージの女性コメディアンとかって、日本でいうと誰だろう……。


kaco
私がイメージするのは渡辺直美さんとかかな……。

 

舞台で扱うテーマや言葉はどう選んでいる?


kaco
ちなみに、スタンドアップコメディの中で「これはやってはいけない」と思うことってありますか。


BJ FOX
弱者をバカすることや差別をすること。
「人をいじる」ことと「人をバカにする」ことの境界は難しい。


BJ FOX
それに、言葉が過激すぎると、客席の雰囲気が悪くなり、こちらもミスする可能性が高くなる。


BJ FOX
東京ではパフォーマーとしてだけでなく、ライブのオーガナイザーやMCもやっているのですが、いつも思うことはお客さん皆に楽しんで帰ってほしい、ということです。


kaco
ライブにはさまざまな人種、性、政治観を持つ人が来ます。舞台の上での言葉選びは慎重にされていますか?


BJ FOX
僕は非常に慎重です。
僕のやっているイングリッシュライブには、東京に住んでいる外国人、英語圏出身の人や英語がセカンドランゲージの人、観光客、そして英語レベルが違う日本人などさまざまな人がやってきます。


BJ FOX
ベースにある知識がバラバラなので、みなさんに楽しんでいただける話をすることは非常に難しいです。
だけどその中で、自分が面白いと思うことは最初に言う。自信を持ってまず言います。


kaco
日本との言語や文化の違いで失敗してしまったことなどありますか?


BJ FOX
失敗したことありますよ!


kaco
本当ですか!?
お聞きしてもいいですか?


BJ FOX
慰安婦問題をネタにしてしまいました。


kaco
(なるほど。難しい問題。)


BJ FOX
実は、イギリスの学校の授業(十分に植民地教育を受けていないという話)をネタにしようとして、少し慰安婦問題・教科書問題に関して触れました。日本に対して他の国は批判しているけれど、イギリス人の反応は「(立場として)そういうことあるよね。」というオチのものです。


BJ FOX
実は会場のレスポンス自体は非常に好評だったんですよ。
だけど、YouTubeにアップしたところ、さまざまなコメントをいただきました。

 

*2『イギリス人の大帝国の恥』

 

「難しい問題をわかりやすくする」お笑いの役割


kaco
その動画拝見したのですが、私はすごく笑いました。


kaco
むしろ、この話をオープンにできることが大切だと思います。
笑いながらも互いに問題を再確認し、意識ができたのではないかと思っていました。


kaco
コメディというコンテクストがあるからこそ、笑いを通じて文化の違いを分かち合えると思います。


BJ FOX
僕も本当にそう思う。お笑いは難しい問題をわかりやすく、聴きやすい形にしてくれる良い方法です。最近思うのは、みんな過敏になり過ぎているなぁということです。冗談をちゃんと聞いて、その“ターゲット”がどこにあるのかを深く考えていない。だから、“テーマ”だけでカチンと来ることが多くなっている。


kaco
ポリティカルコレクトネスを十分に考慮することはもちろん大事ですが、過剰に反応しては本質を見失ってしまう気もします。

 

スタンドアップコメディでお笑いのハードルを下げたい!


kaco
日本でこれからスタンドアップコメディはどのようになっていくと思いますか?


BJ FOX
NetflixやYouTubeのおかげでスタンドアップコメディとの接点も増えています。
日本でも海外経験のある人や英語を話す人、スタンドアップコメディに興味を持つ人が増えているので、どんどん勢いがついてきているのではないでしょうか。


BJ FOX
スタンドアップコメディにトライしてみたい日本人の方をどんどん歓迎したいですし、僕もどんどん日本語でライブをやっていきたいです。
東京に住んでいる外国人、訪日外国人も、政府の目標指数を更新するくらい毎年増えていますしね。


kaco
2020年にはオリンピックもありますし、盛り上がりが期待できそうです。


kaco
では最後に、母国イギリスにとってのコメディと、BJ Foxさん自身が思う“お笑い”について教えてください。


BJ FOX
イギリス人は、割と母国の“お笑い”にプライドを持っています。特に“芸”の知性には。


BJ FOX
僕がよく見ているイギリスのコメディ番組は政治的な面も持っていて、90年代からずっと放送されている長寿番組です。ブラックネタも、抽象的なネタも、どれも面白いです!


BJ FOX
難しい課題を一般の人へ発信する、重要な役割を果たしていると思います。


kaco
(おお、かっこいい! )


BJ FOX
僕にとって“お笑い”は大切なものです。“芸”というもので、多くのことを発信していきたい、そして守りたい。自分の中でどこかにあった“モノづくり”をしたい、という気持ちを満たしてくれるものでもあります。


BJ FOX
スタンドアップコメディの一番いいところは、誰でもできること。
東京でも、当日登録で、誰でもパフォーマンスができるライブもありますよ。


BJ FOX
僕はパブでライブを運営しています。日本のお笑いは、お笑いスクール、育成所、事務所のルートがあって入りにくいな、と思います。だけど、僕がお笑いを始めたように、ライブをみてやりたいと思ったら、すぐに歓迎してくれるのがスタンドアップコメディです。


kaco
スタンドアップコメディって本当に、材料を混ぜればすぐにできるお好み焼きのような即席感ですね!(笑)


kaco
日本でスタンドアップコメディアンとして活躍されている方にお話をお聞きできるとは、本当に貴重な体験でした! ありがとうございます。

 

編集後記

後日、実際にBJ FoxさんのOKOMEDY焼きライブへ。1パイントのビールを注文して、会場に! 入ったタイミングが悪かったようで、舞台に立つBJ Foxさんにネタにされてしまいました。だけど、なんだか緊張感がとれてホッ、と。会場に入った瞬間から味わえる暖かい雰囲気によって、すぐにスタンドアップコメディの世界に溶け込むことができました。観客は多国籍でありながらも、笑うツボは万国共通。それに、お笑いが好き、ビールが好き、おしゃべりが好き、そんなところも皆一緒なんだなぁ! と感じました。
“お笑い”を通して、カルチャーの違いを知り、異なるカルチャーの良さを知る。スタンドアップコメディは「笑っておしまい」ではなく、笑った先に見えてくるものがある気がしました。

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