SPBS本店では、1月26日から店頭フェア「“なんか、新しい”10人が選ぶ10冊の本」を開催しています。川村元気さん、真鍋大度さん、岸本佐知子さん、平野紗季子さんなど、常に様々な領域で新しいことに“チャレンジ”し続けている10人の方々にお声がけをし、「なんか、新しい」と思う本をそれぞれ1冊ずつ選んでいただきました。
どのような経緯で今回のフェアを開催することになったのか。そして、なぜ、今回の10人に選書をお願いしたのか。さらには、選書の内容をどのようにとらえているのか。SPBS事業部マネージャー・鈴木美波さんに編集部スタッフが聞いてきました。
キャッチフレーズは「なんか、新しい」
ー SPBS創業10周年記念関連イベントのキャッチフレーズは、“なんか、新しい” ですね。どういった経緯で、このキャッチフレーズになったんですか?
鈴木:まず創業10周年を機に、SPBSの全社的キャンペーンを展開できたら……と考えました。で、もしもキャンペーンを展開するのなら、SPBSらしさが存分に表現されたものにしようということになったんです。そのように考える中で、そもそもSPBSらしさって何? という話しが持ち上がったんですね。で、スタッフたちと突き詰めて考えた結果、“なんか、新しい”というキャッチフレーズが浮かび上がってきたんです。
「“なんか、新しい”10人が選ぶ10冊の本」は、 SPBS本店で2月7日(木)まで開催中です。
SPBSは創業時から常に「新しい本屋像」を追い求めてきました。新しい本屋像を確立するため、本というコンテンツの持つ力を活かして、従来の本屋では考えられないような無謀なプロジェクトをいくつも起ち上げています。そう考えると、お客さまに「なんかこの店、ちょっと新しいね」と言っていただけるような本屋がSPBS本店であり、そこに本屋SPBSブランドのアイデンティティがあるのでは? と思うようになったんです。改めてそのように思い返して、これからの店づくりにもどんどん“新しさ”を採り入れていこうという想いで、今回の“なんか、新しい”というフレーズに決まったんです。
—そこから、今回のフェア「“なんか、新しい”10人が選ぶ10冊の本」につながったんですね。
鈴木: はい。普段フェアを企画するときは、お客さまが何を買われているのか? 何を着ていらっしゃるのか? どういうお問い合わせがあったか? など、お店に転がっている情報と、街中やSNSで広がっている話題を踏まえて、“いま、これを届けたい!”いうネタを考えています。今回は10周年という特別なタイミングでの企画なので、お客さまとスタッフ双方にとって、意味のあるフェアを開催したいと考えました。
そんな経緯があって、今回は「・・・・・・これは!」と思う表現活動やお仕事をされている方、これからの10年をつくっていくだろうと思う方など合計11人(ひとりは友情出演)にお声がけし、その方たちの頭の中を少しでもお客さまと共有することで、“なんか、新しい”の根っこを探りながら楽しめるようなフェアを企画しました。
選書をお願いしたのは、次の方々です。
・文藝春秋 浅井茉莉子さん(編集者)
・尾原史和さん(アートディレクター)
・川村元気さん(映画プロデューサー・小説家)
・岸本佐知子さん(翻訳家)
・クラムボン 伊藤大助さん(ミュージシャン)
・古賀史健さん(ライター)
・Rhizomatiks 齋藤精一さん(Creative Director / Technical Director)
・西村ツチカさん(漫画家)
・never young beach 松島皓さん(ミュージシャン)
・Rhizomatiks 真鍋大度さん(メディアアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ)
[11人目の特別枠/友情出演]
・平野紗季子さん(フードエッセイスト)
今回友情出演いただいた平野紗季子さんは、 SPBS本店のアルバイトさんでした。
ー なるほど。みなさん職業や年齢もバラバラですが、こちらの10人の方々になった理由や背景などを、もう少しくわしく教えていただけますか?
鈴木:各界の第一線で活躍されている方は他にもたくさんいらっしゃいますが、まずは「何か面白そうなことをこれから仕掛けていきそうな感じ」や、「セオリーからはズレているところもあるのに、良いなと思える感じ」がある方々にご依頼しようと思い、候補者を数十名リストアップしました。
そこからさらに、「この人の選ぶ本なら、SPBSのお客さまにもきっと喜んでいただけそうだ!」と思える人たち計11人に絞り込んで、選書をお願いしました。本のセレクトは個性的ですし、いただいたコメントを読んで「“なんか、新しい”の根っこ」にあるものが垣間見えたような気がしています。この人、こんなところに関心があるのか!(なぜ!)とびっくりするところもあり、興味の幅広さ、好奇心旺盛な感じが伝わってきました。
変わるもの、変わらないもの
ーこの10年間を振り返って、SPBSらしさを表現する本のタイトルも変わってきましたか?
鈴木:そうですね。私は創業メンバーではありませんが、SPBSのキーブックスは、この10年間でだいぶ変化してきたのではないかと思います。
創業時の店内には、1940年代から2000年代までを、それぞれ10年毎に区切った“年代別の棚”が並んでいました。たとえば林真理子さんの最新刊は、どんなに“最新”であっても「80年代」の棚に刺さっている……みたいな分類棚です。林さんは80年代的思考とライフスタイルの象徴のような存在であるから、そのように分類していました。
全体的にコンセプトで引っ張っていくセレクトをしていて、「アートブック」や「建築に関する本」、あるいは洋書など、どちらかというと現在よりもエッジの効いたものでキーブックスが構成されていました。
その後、地元の人にもっと来ていただきたいという思いから、普通の本屋さんと同じようなジャンル別の棚にして本を選びやすくしたことで、コンセプトで売る店からマーケットイン型のセレクトで売る店へと生まれ変わりました。そんなとき、リーマンショックや3.11など、社会に影響を与える事件や災害が重なり、結果として松浦弥太郎さんや西村佳哲さんの著作をはじめとする「働き方・生き方」、雑誌『&Premium』のような「ベストではなくベター」「量より質」「シンプル/ミニマルライフ」といったキーワードが編集テーマになっている本をキーブックスに据えるようになりました。
最近は「考え方」や「哲学」「学び」をテーマに編纂された本などをキーブックスにしています。だんご3兄弟、ピタゴラスイッチなどを手がけた佐藤雅彦さんの本や、博物学者の南方熊楠の本などがじわじわ売れはじめたことがきっかけです。
選ばれた本は実にバラエティに富んでいます。 中には、若き独立研究者によるデビュー作 『数学する身体』(新潮社)も。
ー“SPBSらしさ”もこの10年で変わってきたのですね。
鈴木:はい。その一方で、おもしろいことに、SPBSでは「10年間ずっと売れつづけている本」もあります。たとえば大友克洋さんの『AKIRA』や、伊丹十三さんの『ヨーロッパ退屈日記』、池波正太郎の『男の作法』などです。このあたりがSPBSの本当のキーブックスなのかも知れません。
現在開催中のフェアは、それぞれの選者の方々が「今おすすめしたい本」ではありますが、100年後も「今、おすすめしたい」と言える本も入っているかもしれません。つまり、それくらい普遍性のあるラインナップでもあると思っています。最近のSPBSのキーブックスのセレクトテーマは「普遍性」にありますから、SPBSの棚づくりの文脈と今回のフェアには連続性があると考えています。
人と本のつながりを想像して、楽しんでほしい
ー今回のフェアの見どころや、楽しみ方を改めておしえてください!
鈴木:選書をご覧いただくと、「“なんか、新しい”を生み出す人たちはこういう本を読んでいるんだ!」という意外な発見があると思います。ぜひ、その意外な発見と、それぞれのコメントを楽しんで頂きたいなと思います。その人と本のつながりを想像してみるのも、おもしろいと思います。
それから、フェアとは全然関係ないかも知れませんが、 “なんか、新しい”と思える瞬間が最近の自分にはあったかな? と考えてみるのも面白いかも知れません。広告のような誰かが戦略的につくった“なんか、新しい”ではなく、自分の直感で価値判断した“なんか、新しい”ものの方が、絶対に尊いですよね。もし、そんな“なんか、新しい”と思えることがあったなら、それは何か新しい興味の入り口に立っているということなのだと思います。そういう自分の価値判断を大切にして、自分にとっての“なんか、新しい”を探すために、また本屋に通ってもらえたら嬉しいです。
鈴木 美波
合同会社 SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS SPBS事業部マネージャー。大学在学中から「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」で編集、書店業務に携わり、2012年に店長代理、同年に店長に就任。2017年から現職。書籍や雑貨のセレクト、フェアーやイベントの企画立案、そして、店舗開発などを行っている。
<フェア詳細>
「“なんか、新しい”10人が選ぶ10冊の本」
■ 日時:2018年1月26日(金)~2月7日(水)
■ 会場:SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)
東京都渋谷区神山町17-3 テラス神山1F
■ SPBS ONLINE STOREでも、同じ会期中にフェア開催。http://store.shibuyabooks.co.jp/
■ロゴデザイン:三ッ間菖子さん http://mitsumashoko.com/
■フェア詳細は、コチラ→ http://www.shibuyabooks.co.jp/event/408/