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スタイリスト・伊賀大介さんが選ぶ「心震えるロックな本」(後編)

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スタイリスト・伊賀大介さんが選ぶ「心震えるロックな本」(後編)

スタイリストの伊賀大介さんに選んでいただいた「心震えるロックな本」についてお話を伺うこの企画。話は、本の選び方や子どもの頃の読書の話、スタイリングの話にまでどんどん膨らんでいきました。

(前編はこちら

 

文・写真 = SPBS編集部

 

本の選び方と読書の原体験。

──それにしても、このセレクションは伊賀さんならではの内容だと思うのですが、普段どのように本を選ぶんですか?

 

伊賀:本屋で自分の興味に引っかかった本を選ぶこともあれば、人に薦められた本の中から選ぶこともあります。あとは昔から「ジャケ買い」とか結構ありますよ。ノンフィクションなんかは表紙だけみてそのまま買っちゃいますね。本にしても映画にしても膨大な数のタイトルが世の中にあることを知っているので、どんなに頑張っても全部を包括することはできないということくらい、この歳になれば痛いほどわかるじゃないですか。だから、いい意味での諦めの気持ちを抱きながら、本屋に行って物色する。そして、年下の子、年上の人、年齢を問わず、薦められた本は読んでみる……読書のきっかけは、いろいろですね。まだまだ全然知らねえ本があるなあ! と毎日思いますよ。

本を選ぶ伊賀さん。セレクト本屋では文脈を意識して本棚を見るそう。

 

──活字中毒になるきっかけは?

 

伊賀:ぼくが本好き、そして、文字を読むことが好きになったのは、小学生の頃の図書館での読書経験が大きかったと思います。江戸川乱歩が好きだったんですよ。鍵っ子だったこともあって、図書館に通っては「少年探偵団」シリーズとか、初期のころから読んでいました。子ども向けシリーズを読破した後に、大人向け乱歩の「人間椅子」とか読むとマジ怖いんだけど! って内心ドキドキしながら(笑)。それから、親父が昔から『週刊文春』とか読んでいるのを見て、「この漢字何?」とかいいながら一緒に読んだりして。アカデミックなものや、小難しい本は一切読んでいないんですけどね。活字があればいいので、新聞を読むのも好きでした。

いまはいろいろ読みますけど、昭和の時代のインパクトの強烈な人達は95%くらいお亡くなりになったので、今後はそういう破天荒な人たちの評伝が書かれていったら面白いなと思います。素材はいくらでもあるわけですからね。女癖悪かろうが、ヤク中だろうが、作品を出す出さないには全然関係ない。ありとあらゆる人の評伝を世に出してほしい(笑)。

 

──評伝とか自伝で言うと、こちらもスゴイですね。

『三栖一明』のインパクトある表紙。ページ数もかなり多い。

 

伊賀:ZAZEN BOYSの向井秀徳さんの『三栖一明』(*1)は去年出版されたばかりなんですけど、自分の半生を語り下ろした本なのに、タイトルが友達の名前という。三栖一明さんってのは、向井さんが佐賀に住んでいた時の高校の同級生で、向井作品のグラフィックを手掛けてきたアートディレクターさんです。ガキの時からお互いの家を行き来したり、一緒に酒飲んだり、ゲームしたりしてつるんでいたんだけど、三栖さんが「俺、デザインやるわ」って突然言いだして、バイト先のコンビニのコピー機を使って出力してフライヤーのデザインをしたりしていたらしいんですよ。この本の中には、18歳の頃の向井さんがライブで使った手書きの元原稿や、三栖さんと酒を飲んでいる写真がたくさん入っていて、モンの凄い面白いです。こんな本が出てしまうと、これから「半生記」的なものを出版しても、必ず『三栖一明』と比較されることになると思うから結構厳しいと思いますよ。どうせ『三栖一明』より面白くないでしょ? みたいに思われちゃうかも(笑)。

なんか俺、過剰な人が好きなんですよね。だから、自伝本の束が薄っぺらいと、「なんだよ!」と思っちゃう。「これ3時間で読めちゃうじゃん!」みたいな(笑)。薄い本に限って行間広めだったりするしね。すぐ読める自伝は矢沢永吉の『成りあがり』(*2)だけで充分ですね。あれは元々ヤンキーでも読めるように編集されてるんだから。

 

自分が「全部面白い」と分かっている本棚がある楽しみ。

──こういう本が揃ってる床屋とか風呂屋があったら良さそうですね。

 

伊賀:ははは。こういう選書企画は何年かに一度でもいいからやると面白いっすよね。文系の男は、絶対古本屋をやりたいじゃないですか。もちろん読むのも好きですけど、俺がキュレーションして、本を並べるというのが嬉しい。買った本を家に大事に置いておく、というような気持ちもあんまりなくなってきていたので、自分の脳みそのヒダがそのまま表に出てきたような「完全に全部面白い棚」がリアルにあったら最高だなって思いますよ。

 

──古本屋をやろう、とは思われなかったんですか?

 

伊賀:早川義夫の本を読んで、絶対ムリだなと(笑)。いつか、家の外に小屋みたいなのつくってそこに好きな本を並べてみたいですけどね。この間ゲームシナリオライター・芸能ライターのとみさわ昭仁さんの『無限の本棚』(*3)を読んで思いましたけど、自分は本を読みたいのか、集めたいだけなのか、わかんなくなりますよね。家にあるだけのものもあるし。買ったり集めたりする本のジャンルの射程圏が狭い、俺のような人物でも愉しめるということは、本当の“本フリーク”になって世の中のありとあらゆるジャンルの本に興味を持ってしまったら、それはとんでもないことになると思うんですよ。一生かかっても読み切れない、出会うことすらないだろう本が世の中には溢れているわけですからね。タテにもヨコにもどこにまでだって自分の関心を広げていくことができる。もう本当に、狂うしかない世界ですよね。マジで恐ろしい世界だなと思います(笑)。

無限の本棚。「読み終わったんであげますよ」と言って本を頂きました。

 

ロックな4人組、エレファントカシマシ。

──ここまで本の話を伺ってきましたが、伊賀さんのお仕事は、スタイリスト。数多くの著名人のスタイリングをされていることでも有名です。この間、デビュー30周年を迎えた「エレファントカシマシ」も担当されていますよね。実はSPBSの創業者はエレカシの大ファンだったりするんです。

 

伊賀:映像監督の番場秀一さんにお声がけいただいて、エレカシのスタイリングをさせてもらうようになったんです。ボクは高校生の時からエレカシがすごく好きだったから、やりたくないと思ってたんですよ。ほら、あるじゃないですか。好きすぎて、近づきたくない、みたいな。

 

──好きな人はただ見ているだけでいい、みたいな。

 

伊賀:そうですね。加えて、エレカシには交じりっ気のない世界観があるから、正直スタイリングでは「やることない」という気持ちもあって。宮本さんが白いシャツを着ていることが真理だと思ったんですよ。エレカシについては、スタイリストの手が入らない方が良いのかなと思って。

 

──そこまで想ってもらえるなんて、エレカシは幸せです。

3月17日に行われた30thツアーのファイナルも、もちろん白シャツで。

 

伊賀:一方で、俺以外の人が手がけて、ハイブランドとか着せられちゃったらやべえな! と思っていて。だったら俺が堤防になって、古参のファンから、「宮本くん変わったね~」なんて言われないようにしなきゃいけない! というよくわからない使命感。

 

──3月17日にさいたまスーパーアリーナで行われた「30th ANNIVERSARYTOUR“THE FIGHTING MAN” TOUR FINAL」のスタイリングはどんなテーマだったんですか?

 

伊賀:友達にテーラーがいるんで、今回ははじめて完全オーダーで服をつくったんですよ。「NHK紅白歌合戦」で着ようかなあという話になっていたんですけど、紅白は1曲歌うだけだから、それだったらいつも通りがいいかも、ということになりまして。作ったスーツは30周年で着ようという話になりました。

ライブの個人的なハイライトとしては、アンコールの「四月の風」。演奏が始まったときは“よっしゃー!”って思いましたね。あれ、中年男にすごく響く曲なんですよ。歌詞のサビが“明日も頑張ろう 愛する人に 捧げよう”って歌詞で。あれって、エレカシがあまり売れてないときにつくられた楽曲なんですね。“何かが起こりそうな気がする 毎日そんな気がしてる” という予感の歌なんですけど、それをツアーの最後の最後、春を迎えようとしているたまアリで歌って。歌っているうちに宮本(浩次)さんがちょっと感極まっていたんですね。その姿にもグッときましたね。

本で言うと、宮本さんの本『明日に向かって歩け!』(*4)もめちゃくちゃ良いので多くの人に読んでもらいたいですね。ただ、いまはプレ値が付いちゃって手に入れにくいのが難点。

 

──2万円近い。

 

伊賀:そうなんですよ。だから文庫化すべきだって当時の担当編集やエレカシの事務所の方にも言ってるんですけど、なかなか通らないですね。アウトロー文庫と同じパターン。どんなに俺が願っても1冊として復刊されていないところを見ると、本って大変なんだなと思っています。

古書市場ではすでに高値となっている。

 

──よくよくリストを見ると、男性の本ばかりですね。そこも伊賀さんっぽい?

 

伊賀:俺が男だからかな? 選ぶ際はその点は全く気にしなかったですけどね。女の人の本でも好きな本はたくさんあります。最近は、川上未映子さんの『きみは赤ちゃん』(*5)を爆買いしてるんですよ。40冊くらい買いました。友達に子どもができたって聞くと、すぐにプレゼントする。この間、文庫になって嬉しかったんですよ。単行本だと値段が高いから、毎回何十冊も買うのは無理じゃないですか!

 

──単行本でも配ってたんですね!

 

伊賀:すでに10冊くらいは配りましたよ。子育て本として名著だと思うんだけど、周囲にいる奴らはあんまり知らないんですよ。読んでないのに奥さんに言うと、単に「俺も子育て頑張ってるよ」っていうアピールになっちゃうから、全部読んでから奥さんには「読んだ」って言えよ、って渡すんですよ(笑)。

 

──楽しいお話をありがとうございました。フェアは4月30日までです。よろしくお願いします!

 

伊賀:読まれてほしいなあ~! なんならポップも書きますよ!

 

 

〈インタビューに登場した本のご紹介〉

『三栖一明』(*1)(向井 秀徳/ギャンビット/2017)

ミュージシャン〈向井秀徳〉が、高校時代を共に過ごし、彼のアートワークを手掛けているデザイナーの三栖一明との関係性について語りおろした自伝的一冊。

 

『成りあがり―矢沢永吉激論集』(*2)(矢沢 永吉/小学館/1978)

スターを夢見て上京したミュージシャン・矢沢永吉の自伝。編集は糸井重里が行った。

 

『無限の本棚』(*3)(とみさわ 昭仁/筑摩書房/2018)*文庫版

芸能ライター、ゲームライターを経て、ライターをしながら古本屋を開業した好事家のコレクション論。

 

『明日に向かって歩け!』(*4)(宮本 浩次/集英社 /2002)

政治、野球、音楽活動、日々の生活などを書き綴った、エレファントカシマシ宮本浩次の初エッセイ集。

 

『きみは赤ちゃん』(*5)(川上 未映子/文藝春秋/2017)*文庫版

作家・川上未映子の子育てに関するエピソードを書き綴ったエッセイ集。

 

〈プロフィール〉

伊賀 大介(いが だいすけ)さん / スタイリスト

1977年 、西新宿生まれ。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22才でスタイリストとしての活動開始。雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、その他幅広いフィールドで活躍中。

 

〈INFORMATION〉

ブックフェア〈伊賀大介が選ぶ「心震えるロックな本」〉開催中! 会期は4月30日まで。

トークイベント4/26(木)開催〈五木田智央さん×伊賀大介さん×井上崇宏さんの男3人プロレス夜話 アート×ファッション×編集 ~すべての道はプロレスに通ずる~〉*満席となりました。

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